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2010年3月22日 (月)

ナマズ

一番好きな散歩コースの川原に出ると、ナマズを思う。
五年ほど前のこと、散歩の途中にふとのぞいた水辺に、ナマズがいた。横に開いたナマズの口元が妙だ。よく見ると、釣り針がすっぽり口にはまっている。
このままでは、餌を食べることができない。けれど私は釣の経験もなく、ナマズを掴み、針を外すなどできそうにない。
河川敷を上へ下へと走りまわり、やっと釣り人を一人見つけた。「ナマズを助けてください」と頼み、現場へ案内する。
水から引き上げられたナマズは、黒々とあきらめきったような顔をしていた。針はナマズの両方の口角に刺さり、返し針がついていて容易に外れない。おじさんは悪戦苦闘の末、ついには口角を引きちぎるようにして外した。
「助かるかな…」血を流すナマズを水に戻しながら、おじさんは呟いた。ナマズはぐったりと沈み、へしゃげたまま微動だにしなかった。
あれ以来、ナマズには会ったことがない。ナマズは助かったのだろうか?助からなくとも、せめて、あぁやっと口が自由になったとよろこんでくれただろうか?
そういえば、あのおじさんもあれきり見かけない。助けたナマズに連れられて…まさか…。

(現代川柳 ゆうゆう夢工房 「おはようエッセー」を転載)

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