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2010年7月 8日 (木)

一冊から

旅先や通りすがりの町で、ちいさな書店を見つけると、のぞかずにおれない。そこで必ず一冊の本を選び、電車の中やカフェ、宿など、その町で読むことにしている。
後々その一冊から、書店のたたずまい、町の風景、そこで食べたもの、出会った人・・・ジグソーパズルのピースが埋まっていくように思い出すのは、密かなたのしみだ。
娘の下宿の道をはさんだ向かいにも、書店があった。日暮れに散歩がてら、ふらりと寄ってみる。並べられた本に、店主の嗜好が表れていておもしろい。スペースの割には、アートや食べ物、郷土にまつわる本が充実している。
そんな中、ふくよかで憂いのあるさくら色に引き寄せられた。見たこともないうつくしいさくら色の表紙。「白のままでは生きられない」・・・出会ってしまった!即決。染織家、志村ふくみさんの言葉をあつめた本だった。娘の、真新しいベッドに寝転がって読む。

誰かに出会うのか、誰かではなく、まだ見知らぬ自分に出会うのかもしれない。けれどそれは手をかしてくれない。最後のいちばん崩れやすいところを身を軽くして登りきらなければならないだろう。
(志村ふくみの言葉 「白のままでは生きられない」 求龍堂)

・・・このベッドで、この娘は何度泣くだろう。もう私は手をかせない。ここからは自分で登りきるしかないのだな・・・。そのとき、このさくら色のように、きっとみたこともない自分の色になっているのだろう・・・。長い髪を切ったときのような、うれしさとさみしさのないまぜになった軽やかさを感じていた。
いつかこの本を手にとると、ちいさな葵書房、どしゃぶりの引越し、収まらない米びつ、やっと一息ついたロールケーキ・・・そして、固いベッドの上で、娘がふわぁと離れたことを・・・、きっと思い出せるだろう。



 

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