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2013年11月 1日 (金)

だからその間は息を止めていた

亡母の家を片づけに来た。しばらく閉めきっていた家は、古書のような匂いがする。

どこから手をつければよいやら・・・。何とはなく、台所からとりかかることにする。

L字型に流しとガス台。真ん中に食卓。食卓の真上には、明かりとりに天窓がついている。

天窓を見あげると、大きな蜘蛛の巣。母のレース編みを思い出す。

母はよくレースを編んだ。糸をかけた指、かぎ針を操る指。うつくしい指先から、魔法のようにレースが生まれる。それを見るのが好きだった。

蜘蛛の巣があまりにきれいなので、メモ帳にスケッチする。ゆるいカーヴがうまく書けない。目を凝らすと、巣は呼吸するように揺れている。風もないのに・・・まさか私の息で?
 
糸という糸が、水を含んだように脈打っている。生きているの? ふいに糸が髪に絡みはじめる。外そうとした指に、指から腕へ、糸はどんどん絡みついてくる。
 どうしよう、どうしよう・・・。この感じ、憶えている。何だかなつかしいわ、母さん。母さんに、ここに座りなさいと言われたとき。はじまるとき・・・。そう、息を止めるんだった。息を止めていれば、そのうち済むから。
 
余計なことをして、時間をとってしまった。このあと、彼に会いに行かなきゃいけないのに。母さん、結婚するのよわたし。
 
台所用品や食器をダンボールに詰めて、今日はおしまい。暮れかかる天窓に、蜘蛛の巣はそのまま浮いている。真ん中に大きな黒っぽい塊があり、はみ出した白い手足が幽かに動いていた。

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