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2013年12月 1日 (日)

ひとつぶの青い雫になる小鳥

ある朝、ベランダの物干し竿に止まっていた、青い鳥。そっと両手で包むと、簡単に捕まった。

ペットの鳥が逃げ出して、餌がとれずに弱ってしまったのだろう。随分前だが、十姉妹を飼ったことがある。古い鳥かごを引っぱり出してきてそっと放すと、鳥は古巣に戻ったかのように止まり木に止まった。

 1週間ほどたっただろうか?何気なく「おはよう」と声をかけると、「オハヨウ」と返ってきた。しゃべれるんだ!
 他の言葉も知っているに違いない。それからは、たくさん話しかけた。

「いい天気だね」「ダネ」「ごはんだよ」「ダヨ」「おやすみ」「オヤスミ」・・・小首を傾げる仕草が、言葉を必死に思い出すようでおかしい。時にはオウム返しではなく、「タシカニ」などと新しい言葉を口にして驚かせた。

 ランチのパスタに水菜を洗っていたときだった。「シノウカ」という声がした。

 そうだ、あの日も私はここに立っていた。ソファに座っていたあの人が、独り言のように「死のうか」と言った。水音で聞こえないふりをして、「雨止んだ?」と聞いた。あの日も、雨が降っていた。

 それからというもの、雨の日に水を使うと「シノウカ」と呟くのだった。

 「シノウカ」・・・「そんな気もないくせに!」、とうとうあの日言えなかった言葉を叫んでいた。鳥の青が、さっと深くなる。「ごめんね」「ゴメン」。それから鳥は、一言もしゃべらなかった。

 翌朝、鳥は首を捻ったようにして、鳥かごの底で冷たくなっていた。

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