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2014年3月 2日 (日)

雪ふりつむ次郎の瞼うすくして

妻の荷物は、古めかしい鏡台一つだった。何でも母親の形見だとか。鏡を覆う錆朱の布のせいか、老女のように突っ立っていた。
 
全身を映すのには、使い勝手が良かった。使いっぱなしにすると、「布掛けとかないと、お日さまが入って火事になるんだよ~」、決まって妻が言う。真剣な口調がおかしかった。
 妻はよく鏡越しに話しかけた。
 あの日も・・・。「ね、赤ちゃんができたよ」。私と妻のしあわせなドラマを、二人で確かめるように。そして、鏡にも見せるかのように。
 
妻のつわりは重くて、かなり痩せてしまった。つわりが治まったかと思うと、次はマタニティブルー。不安ばかり口にして、些細なことにめそめそする。鏡越しに泣く妻の背に、私は隠れた。
 
ほどなく若い恋人ができて、家が遠くなった。出張と偽り彼女の部屋に泊まった夜、妻から電話。
「切迫流産で絶対安静にしなきゃいけないって。今日、帰れない?」「雪で新幹線が動かないから無理だよ。こんなときに、ごめんな」「そうだね、こっちも雪・・・。仕方ないね。気をつけて帰ってきてね」。鏡越しに雪を見ている妻が、ありありと目に浮かぶ。
 
翌朝、「赤ちゃんだめだった。ごめんね」とメールが入った。電話をしてもつながらない。

 帰宅すると、妻の姿はなかった。

 めずらしく鏡がむき出しになっている。布を掛けてやろうと、鏡を覗いた。

 眩しい!雪だ。雪が降っている・・・。パシャン!炎のような雪が鏡から噴き出した。これは、雪なのか、白い夢なのか?

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コメント

川柳はドラマですね。
桐さんは脚本家にも向いているとおもいました。ほんと。

マルさん、嬉しゅうございます!
おかしな夢のストックが、日の目を見る日が来るとは・・・。
世の中、何が役に立つか分からんもんですね~。

ところで、花粉症きましたね。
この時期の思考力のなさは、ほんと、くらげになった気分です。

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