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2014年5月 3日 (土)

すれ違いざまに桜と入れ替わる

月のない今夜が、最後のチャンス。桜は息を詰めて待っていた。

放心したような女がやってきて立ち止まり、何やら呟きながら花を見上げる。ぐっと顎を持ち上げたそのとき、今だ!

 桜は女と入れ替わった。

一年前の私も、気づいたら桜になっていた。

満開の闇夜に、女の喉を通してしか、たましいは入れ替われない。過去には、七年も桜で過ごした女もいるそうな。

桜になったことのある女とは、一度だけ話したことがある。

桜の香が薄らいで、私の体臭に戻りかけていた秋口のこと。地下鉄のホームで、見知らぬ女が親しげに話しかけてきた。

 階段を伝って降りてくる風に揺れる、私の腕を見て分かったと言う。そう、私たちは、しだれ桜だった。

「私なんてもう十年以上経つのにね、腕がほら、風に揺れるのよ…」と、女は笑った。

 そうしてまた、花の季節が巡ってきた。桜になるのは一度きり。二度と入れ替わることはないと分かっていても、足がすくんで近づくことができない。

 花も終わりの頃、ようやく女の桜を見に行った。新しい葉が青々と木を埋め尽くしているのに、未練がましく花が残っている。よく遊びに来ていた鳥たちは、一羽もいない。

 通りがかったおばあさんが、「今年は花の色がうんと濃いし、長いこと咲いとるのよ…」と、嬉しそうに教えてくれた。

 そういえば…、あの夜、女の手は血に染まり、うわ言のように男の名を呼んでいた。

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コメント

おぅ~7年も・・・。

思わず周りを見回した・・・。
来年から桜を見る目が変わりそう・・・・。

いるんですよ〜。

やけくそに咲いているのは、桐子桜です(笑)

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