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2014年6月 3日 (火)

水中に揺らすと顔が浮いてくる

山間のダム湖へと、車を走らせた。
念のため遊歩道を一周。私の他に、誰もいないのを確かめる。
トランクには、捨てたいものが積んである。
思っていた以上に水が少ないけれど、まあ何とかなるだろう…。車に戻ろうとしたそのときだった。
「あれが、小学校の屋根…」 。飛び上がるほど驚いた。麦わら帽子を目深にかぶったおじいさんが、立っている。
「小学校以外は、家は、沈む前にみな焼いた」  
そうだった。ここには小さな村が沈められている。水面に突き出た、焼け焦げた木材は家々であったらしい。
「おじいさんの家も、ここににあったんですか?」 。もう一度振り向いたが、帽子の下の顔がどうしても見えない。
「ああ…あのまん中へんにな…」 。水の中にいるような仕草で、おじいさんはゆっくり遠くを指差した。  
結局この日は、捨てるのをあきらめた。
それから十日ばかり、降ったり止んだりの天気が続いた。  
今日のダム湖はたっぷり水を湛え、村のことなどすっかり忘れたかのように、空を映している。
湖をボートでゆっくり進む。この辺に沈めてあげよう…。  
水が揺れて、ボートも揺れる。沈んでゆく、その先で目が合った。  
おじいさん…。あのおじいさんが、麦わら帽子の下で、ゆらゆらと笑っていた。

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